観光客が押し寄せる釜山「甘川文化村」の街の深刻な問題

釜山中心部の西に「甘川文化村」というエリアがある。急斜面に沿ってカラフルな家々が立ち並ぶ場所で、観光客に人気らしい。チャガルチ市場からバスで20分、タクシーで10分ほどで行ける。

バス停に着くやいなや、眼の前にカラフルな家々が現れる。いわゆるインスタ映えスポットで、日本人を含む観光客がカメラを構えて撮影待ちの列をつくっている。

街には土産物店やカフェがあり、観光地という感じ。貸衣装屋も人気なようで、京都の着物と同様に、チマチョゴリを着た観光客があちこちで記念撮影をしていた。釜山市はアートプロジェクトをしているそうで、小説・絵本の「星の王子さま」のウォールアートやモニュメントが人気らしい。

この街はとにかく坂が多い。

坂というか、階段。そんな道を地元住民の高齢者がよいしょと上っていく。

甘川文化村には、高齢者が多い。ここに限らず、韓国全土で少子高齢化が深刻な問題になっている。2024年現在の出生率は0.72(女性が一生のうちに生む子供の数)で、世界でも最低水準。就職難に加えて、ソウルの首都一極集中や地価高騰。教育費負担も大きく、若者が結婚し、子供を育てるのは容易ではないという。

また、過疎化が進む甘川文化村では、空き家が目立つ。4割もの家には人が住んでいないといい、銀行からの通達書類が扉に挟まっている家も珍しくない。釜山市はアートプロジェクトに税金を投入しているが、増えたのは日帰り観光客と彼ら向けの土産物店だけで、若者が新しく移り住むことはないという。

移住を難しくしている要因のひとつに、家が登記されていないことがある。もともと朝鮮戦争の混乱のさなかに平野部から逃れてきた人々が築いた村。貧しい状況で、固定資産税の支払いから逃れるため、登記をしていなかったという。その結果、家の所有者が不明で、売買も解体もできない状況だという。

また、生活コストも低くはないという。狭く急な坂が多いため、徒歩での移動が必須となる。暖房や調理に欠かせない灯油やプロパンガスは、人力で運んでくる必要があり、配送費用は割増料金となる。当然、高齢者が出かけようにも、家の前にタクシーを付けることもできず、生活が困難となる。

不便な村の人口は減少を続けている。

こうした状況を変えようと、立ち上がった若者も過去にはいた。Airbnbで民泊にしたり、カフェを開業したり、イベントを開いたりと、様々な試みがなされた。しかし、夜になると開いている店がほとんどないため、立地的にも不便なこの村では民泊は失敗した。カフェやイベントを開くと、地元住民からの反発があり、中止を余儀なくされた。

夜に展望台から村を眺めると、明りの灯っている家はわずかだった。

失敗は地元住民との対話の不足も原因のひとつにあると思う。けれども、それ以上に、頑なに変化を避けようとする高齢者も問題だと、案内人には語っていた。高齢者を敬う文化のある韓国。それ自体はいいことではあるのだけど、一部の高齢者から若者に対する敬意が欠けていると指摘する。バスの優先席で、怪我をしている若者がいても席を譲らない。年上の人の意見に対してNOと言えない空気がある。

1994年のピーク時には400万人に迫る人口を有していた釜山だが、現在の人口は340万人。65歳以上の人の割合は22%以上と、国内で最も悪い数値となっている。

韓国の少子高齢化には歯止めがかかる様子はない。22年の世論調査で、子供をつくらない理由の1位は「経済的不安(55%)」だったらしい。何年か前に、ビットコインが大流行した際、若者たちがここぞとばかりに借り入れをしてレバレッジをかけまくっていたが、大暴落で借金を背負う者が続出したらしい。19年〜23年頃の不動産バブルでも、借金をして不動産投資をする人が続出したが、バブル崩壊で返済に苦しんでいる状況だという。

リスクを負ってまで富を得ようとするほど経済状況がひっ迫しているということのなのかもしれないが、自分を磨き、自国産業を成長させる意志を持ち、良くない「伝統」に対してはNOと言えるような環境になってほしいと願う。

旅のMEMO