港町ア・コルーニャに魅せられて

スペイン旅行といえばバルセロナやトレドなどへ行く人が多いようですが、田舎育ちの人間なので、どうも肌に合わず‥。そんな僕が淡い期待を胸に向かったのは、スペイン北西部、ガリシア州にあるア・コルーニャ(A Coruña)という街。よほどマニアックな人でないと知らないと思いますが、世界遺産に登録されている「ヘルクレスの塔」があります。説明はあとにすることにして、さっそく旅へご案内します。

この街はア・コルーニャ県の県都。大きな街で、鉄道や空の便もそこそこ充実しています。スペインの端っこにはありますが、アクセスは悪くありません。サンティアゴ・デ・コンポステーラからは電車で30~40分。運賃は片道5~7ユーロほどだったので、サンティアゴに行った「ついで」に立ち寄ることにしました。

じつは初めて乗るスペインの鉄道。でも、これまでイタリアやタイで「素敵な体験」を嫌というほどしてきたので、さほど不安はありません。スペインの公共交通って、思いの外しっかりしているんですよ。鉄道は遅れが少ないですし、高速鉄道のAVEは16分以上遅れると半額、30分以上で全額を返金してくれます。しかも早期予約で大幅に割引してくれるので、ヨーロッパのなかではかなり信頼感のある鉄道です。近郊列車でも全席指定。ゆったりとした車内にコンセントまでついで快適です。

列車は40分ほどで終点のア・コルーニャ駅に到着。

ガリシアの特徴でもある、どんよりとした天気のこの日。せっかくの海なら晴れがよかったのですが、長いあいだ海をお目にかかっていなかった自分にとっては、海を見られるだけでもテンション急上昇でいい気分。海沿いは広々とした公園や歩道が整備されていて、晴れの日には出かけたくなること間違いなし。白を基調とした建物もすらっとスタイリッシュに決まっています。

ここは湾港都市。漁船のほか、大型の貨物船や豪華客船も出入りします。

空模様はめまぐるしく変わって、一瞬の晴れ前が見えました。光量不足で色がはっきりとしませんが、海はびっくりするほどの透明度。船着き場では、船の下を泳いでいる魚どころか、港の底まで見えてしまいます。

そんなきれいな海からくる潮風を浴びながら歩いていると、何やら不思議なオブジェが見えてきました。先史時代にヨーロッパ各地で建てられたメンヒルではないですか!と思って近づくと、どうも新しい感じがします。疑いの目で見ていると、発見。

「FAMILIA DE MANHIRES(1994) MANOLO PAZ」

やっぱり現代アートでした。でも、この場所にあるからか「これは大昔の・・」と言われてもなんだか納得してしまいそうな気もしますね。目が悪いだけですかね。

海岸に沿って先へ進むと、とうとう「ヘラクレスの塔」が見えてきました。ア・コルーニャで見たかった、一番のお目当てです。この塔、紀元1世紀、およそ2000年前に建てられたもので、いまも現役の灯台として活躍しています。18世紀の改築でひとまわり大きく、そしてきれいになりましたが、それでも2000年も前の灯台が現役で使われているのには驚きです。2009年にはユネスコ世界文化遺産に登録されました。

塔の周辺は公園になっていて、緑の匂いがいいこと。人も少なくて、こんな景色を独り占め。雲の切れ間から差し込んだ光が海を照らしました。見えますでしょうか、この青さ。入り江の小さなビーチで澄み切った海を泳ぐ。一度してみたいですね。

さらに歩くと、大きなビーチが見えてきました。冬なのでさすがにビーチで水着になっている人はいませんが、夏に来ればびっしりとパラソルが並んでいることでしょう。

午後3時、スペインのお昼の時間になったので、お散歩中に目をつけていたお店へ向かいます。魚市場のすぐ近くにあったお店の「MENU DEL DIA(日替わりランチ)」が気になってしかたがありませんでした。メニューにお魚があったのです。内陸部ではなかなか美味しい魚を食べられないので、ここぞとばかりに。

早速注文しようと思うと、ガリシア語でオーダーを聞かれます。
クセはあるものの、だいたいスペイン語なので、何とか理解。

「1皿目を○○のスープ、…(早くて聞き取れない)、サラダから選んでね。」
「あ・・サラダで・・」
「2皿目が・・・とメルルーサの・・」
「メルルーサって何?」
「魚」
「!!じゃあそれで」

魚のことで頭のなかがいっぱいだった僕は、ほかのメニューを聞き返すことなく瞬間的に反応。そして、真っ昼間ですが、まわりの客が全員ワインを飲んでいるので、釣られてワインを注文。

しばらく待つとでてきました、食べ放題のバゲット、そしてワインはボトル丸ごと、おまけに炭酸水。器にはたっぷりの野菜が盛られています。これだけでもお腹を満たせそうですが、このあとお魚が控えています。野菜は新鮮、シャキシャキであっという間に完食。

早くお魚が食べたくてうずうずしていると、やってきました。写真がテキトーすぎて大きさが伝わりませんが、かなり大きなメルルーサがドーンと盛られています。味付けはいたってシンプル。さっと火を通しただけのぷりっぷりの食感がたまりません。お腹いっぱいになりました。

そしてこのあとデザートのケーキが登場。ですが、味についてはノーコメントで。ほんとスペインのお菓子って美味しくないんですよね…。どこでケーキを食べても、アメリカとも違う、形容し難い雑な甘さがあります。最後にコーヒーがでてきました。

さて、こんな充実メニューですが、お値段は驚きの9.5ユーロ。日本で言うところの1000円ランチのような感じ。コストパフォーマンス抜群ですね。満足です。

そんなお食事で幸せになっていたところ、外へ出ると大荒れの天気。強風でなかなか前に進めません。ひとまず屋根の下で待機。でも、気まぐれなガリシアの空は、すぐに静かになりました。撮影準備をするべく、ふたたびヘラクレスの塔へむかいます。

塔の周辺は切り立った崖になっていて、荒波が押し寄せます。地理の授業で「リアス式海岸」という言葉を習ったかと思いますが、ここがその本家本元。溺れ谷を意味します。暗い空がいい演出をしてくれます。

ア・コルーニャからすこし南へ行ったところに「フィニステッレ」という地があります。日本語にすると「地の終わり」を意味します。そう、この一帯は大地の果てと考えられていました。崖のむこうに広がる大西洋。そのむこうは未知の世界だったのです。

日が沈む頃には撮影場所を決めて、準備完了。誰もいない崖のうえに三脚を構えて、強風のなかひたすら待つのみ。特殊な撮影をするため、1時間のあいだカメラには一切触れられないので、かなりひまです。でも、その甲斐あってか、この作品ができました。大満足。

ア・コルーニャ、スペインの好きな街ランキング上位にランクイン。いいところでした。

旅のMEMO

ガリシア地方は年間を通じて雨の多い地域。