フィリピン最大級のスラム – ハッピーランド

マニラ北部にあるトンド地区。そこへ行きたいと伝えると、地元住民は口を揃えてやめておけと言う。スリやホールドアップは当たり前、殺人があっても驚かないそうだ。実際、この地域で会った子どもたちの話を聞くと、父親が刑務所にいる子が何人かいた。男の子のなりたい職業ランキング1位は警察官(僕調べ)。

そんなトンドだが、もちろんみんなが凶悪なわけではなく、大勢の温かい人々が住んでいる場所でもある。玄関扉がなかったり、テント暮らしだったり、路上暮らしだったり。プライベートとパブリックの境界が曖昧だから、住民どうしで助け合い、監視し合う社会になっている。2日間の滞在の中で、喧嘩や罵声は一度も見なかった。

今回、トンド地区を案内してくれたのはスモーキーツアーズ(Smokey Tours)のジョセリンさん。トンドで生まれ育った4人の子どもの母だ。スモーキーツアーズは、民間の支援団体で、外国のファンドの支援を得ながらトンド地区の教育支援活動を行っている。その一環として、高校や大学に進学する子どもに奨学金を与えながら、親にツアーガイドなどの仕事を与えており、今回参加するツアーの収益は地元住民に還元される仕組みになっているという。

2024年4月時点ではツアーは公には募集していないが、メールで問い合わせると個別に対応してもらえる。スモーキーマウンテン/ハッピーランド、バセコの2つのコースがあり、それぞれ半日で1人1,500ペソ(グループツアーの場合)。今回は特別に丸一日のプライベートツアーを手配してもらった。

まずはバランガイ(町内会のような自治組織)長のところへ行って、地域の概要を聞く。バランガイ長のおもな仕事は住民をまとめたり、行政との架け橋になったりすることらしい。ちょうど数日前に大きな火災があったとのことで、被災者支援に同行した。トンド地区は廃材を集めてできたような住宅が密集しており、電気やガスの普及率も低いため、料理には炭や薪を使う。それゆえ火災が起こりやすく、一度火災が発生するとまたたく間に一帯が炎に飲み込まれてしまう。被災者にはシェルター(テント)や食糧が無償で支給されるといい、その配布活動を行っていた。

ここはおそらく世界一有名なスラムのひとつ。もともとは死体やゴミを捨てる場所で、タガログ語の「ハピラン(捨てる)」と呼ばれていたが、負のイメージを払拭しようと「ハッピーランド」と名を改められた。文字通り、住民たちからは笑顔が絶えない。

子どもたちの間はバスケットボールが人気だ。フィリピンの国民的スポーツで、あちこちにコートがある。

それと同じくらい、インターネットゲームやSNSも人気だ。とはいえ、スマートフォンを持っていない子どもも多く、家にWiFiがないこともほとんどだ。そこで活躍するのが公衆WiFiとインターネットカフェ。公衆電話のように自販機のような箱に1ペソをいれると1時間WiFiが使えるようになる。

フィリピンはSNSの使用時間が世界一長い国のひとつでもある。インターネットカフェをのぞくと、子どもたちはFacebookに熱中している。もちろん大人たちも、トンドに限らず、暇さえあればずーっとFacebookのフィードを見ている。

おもな仕事は露店、トライシクルの運転手、そしてゴミの分別(スカベンジャー)だ。特にスカベンジャーは資格不要でできるため、小さい子どもも手伝っていることがある。マニラ中から集められたゴミを一日中分別するのが仕事。銅などの金属は換金性が高く、フィリピン全体の平均的な給与以上の収入を得られることもある。一方でペットボトルは1kgあたり2ペソで、1日に60kg〜80kgほど処理するというから、1日の稼ぎは120〜160ペソ(324円〜432円)ほどにとどまる。

女性はにんにくの皮むきの仕事などがある。こちらは10kgを1日かけて剥いて、90〜110ペソほどだそう。

稼ぎは現代的な生活をするのに十分な金額には程遠く、家族が多いと食べ物にも困る。日本では戦後にはあったと聞くが、21世紀のいまでも「パグパグ」と呼ばれる残飯を再処理した料理屋が存在している。おもにファストフードチェーンのフライドチキンやハンバーガーのパテを集めてきて、洗浄した後に再処理して料理にする。フライドチキンはライスつきでお腹いっぱいになり20ペソ。きちんとした店の3割ほどの値段だ。もちろん食中毒の危険もあるから、行政から勧告を受けているが、行政が何か支援をしてくれるわけではないらしい。

持ち合わせの小銭が少なくなったので両替してもらおうと商店に行くと、大量の小銭が出てきた一方で、紙幣はほとんどなかった。この地域での流通金額がいかに小さいかがよく分かる。

次回はハッピーランドとバセコ・コンパウンドへ。

旅のMEMO

トンドの訪問は明るい時間にガイド同行をおすすめ。収益が住民に還元されるSmokey Tours。
https://www.smokeytours.com/