3回の渡航を経て、すっかりフィリピンの虜になってしまった。けれども、これまで訪れたのはマニラだけで、フィリピンの田舎を知らない。そこで調べたところ、マニラがあるルソン島北部に山岳地帯があることを知った。そこには無数は棚田が広がる世界遺産があるという。しかし棚田は日本各地で見たことがあるし、マニラから9時間も夜行バスに乗ってまで行く価値はあるのか‥と半信半疑で向かった。
バスは夜9:30にマニラ・パサイから出発する。今回利用したのはOHAYAMI TRANSという会社で、ネットで事前予約ができた。雨季に入りかけの時期だからか、バスの乗車率は5割ほど。例によって冷房ガンガンの冷蔵庫状態になりながら、途中2回の休憩を挟んで8時間ほどでバナウェという町に到着する。
バスターミナルは町から1kmほど離れた場所にあるため、「無料」のトライシクルで移動する。無料といってもボランティアでやっているわけではないので、その先の宿やツアーなどを勧誘するという仕掛けだ。今回はたまたまバスの中で知り合ったフィリピン人の中年男性と一緒だったので、うまくやってくれた。
まずはバナウェで朝食を。町の中心のすぐ近くにある「People’s Lodge & Restaurant」というところに入ってみた。店の奥に進むとテラスがあり、美しい景色が広がっていた。眠気が完全に吹き飛んだ。じめじめとしたマニラとは打って変わって、気持ちの良いそよ風が吹いている。この景色を見ながら、バナナが入ったおかゆをいただく。
バナウェの周辺にはいくつかの棚田があるが、今回はバタッド村という場所を目指する。再びおじさんと一緒にトライシクルをチャーター。1時間ほどかかるとのことで、600ペソで交渉成立した。
途中、何度か「絶景ポイント」で立ち止まってくれる。
非力なバイクのアクセルを全開にしながら、ノロノロと山を上ると、バタッド村の玄関口に到着する。村の中まではまだ舗装されておらず、500mほどは未舗装の道を歩いていかなければならない。急斜面もあったりして危ないのだが、地元の人々は重い資材を肩に乗せながら軽々と歩いていく。
村の入口で50ペソの入村料を払い、休憩がてら、おじさんの泊まるという宿へ一緒に向かう。その宿にはテラスがあり、そこからの景色が想像を超えていた。写真ではどうしても伝えられないスケール感に圧倒されるばかりだ。すべてつなげると地球半周分にもなるという棚田を2000年前の人々が作ったというのが信じられない。
さて、今回自分が泊まるのはというと、棚田の真ん中にぽつんとある集落の中だ。距離自体はさほど離れてはいないのだけど、道なのかどうかも分からないような急斜面の道を歩いていかなければならない。結局、30分ほどかかって「CRISTINA’S Main Village Inn And Restaurant」に到着した。ゲストだからといって特別気を使ってくれるわけでもない、まさにアットホームな家族経営の宿。心地が良い。部屋の窓の外には棚田が広がっている。1泊500ペソだったが、この景色には三ツ星ホテルでも敵わない。
この村にはイフガオ族という少数民族が住んでいる。織物が有名で、祭りの時などには鮮やかな伝統を身につける。
この風景を守り続けてきた彼らは、今でも伝統農法で米を作っている。電気が通ったのは2010年になってから。チケット制のWiFiはあるが、停電が多く、使えないことのほうが多い。近くの町まで車で1時間かかるから、だいたいの場合は、田んぼの世話をして、残りの時間を雑談しながら過ごす。
電気が通るまでは、村の外のことを知る手段は少なかった。しかし、テレビやインターネットがやってきたことで外に出たがる若者が増え、人口減少が問題となっている。複雑な地形のため、田んぼに機械を入れることは難しい。耕作放棄地が出てくるのも時間の問題なのかもしれない。